ボーイミーツガールの金字塔 イリヤの空、UFOの夏 感想
私が面白いと思ったライトノベルを紹介していくというありがちな臭い企画です。
社会人になるまで広くオタク文化に親しんできましたが、一番熱を入れていたのがラノベでした。
社会人になってなんとなく面白さを感じなくなり、「やる夫スレ」に出会ってからは殆ど購入しなくなりましたが、ライトノベル黎明期から繁栄期にかけて、意欲的に購読しており、所詮懐古厨ですが、それなりに読んできました。
そんな第一弾として取り上げるのがこの秋山瑞人著作、電撃文庫より出版の「イリヤの空、UFOの夏」です。
ライトノベル名作スレ等でも度々名前が挙がるので、知っている方は多いのではないかと思います。
電撃文庫は今はラノベ界の王者として君臨していますが、当時はまだまだ富士見ファンタジア文庫が強く、地道に勢力を広げている段階でした。
そんな中、電撃ゲーム小説大賞に応募して色々あってデビューした秋山瑞人氏。
著作が順調に評価され2001年、代表作となるイリヤが発売されます。
ちなみにイリヤ以前の作品の評価も高く、そちらも合わせてお勧めできる作品です。
今となってはベタな展開
ストーリーの概略ですがwikipediaの「イリヤの空、UFOの夏」ページより引用させていただきます。
浅羽直之は園原中学校の二年生。非公式のゲリラ新聞部に所属する彼は、部長である水前寺邦博と共に、夏休みの間中、裏山にてUFOを探す日々を送っていた。園原にはUFOの噂が絶えない有名な空軍基地があり、水前寺はその秘密を追究していたのだ。しかし夏休み全てを費やしても、UFOについては結局何の成果も得られなかった。
そして夏休み最後の夜、せめてもの思い出にと浅羽は学校のプールへと忍び込む。が、そこには伊里野加奈と名乗る、見慣れぬ不思議な少女がいた。状況が飲み込めないままに浅羽は伊里野と触れ合うが、すぐに伊里野の兄貴分と自称する謎の男が現れて、その夜はそれでお開きとなった。 そして翌日の始業式の日、浅羽のクラスに伊里野が転校生として編入してきた。ささいな事件がきっかけでクラスから孤立してしまった伊里野と、そんな伊里野のことが気にかかる浅羽と、伊里野の周囲に垣間見える幾つもの奇妙な謎。そんな風にして、浅羽直之のUFOの夏は、その終焉に向けて静かに動き出した。
少年と少女が織り成す、切なくておかしくてどこか懐かしいSF青春ラブストーリー。
と、こんな感じです。
普通の少年と、謎めいた少女のボーイミーツガール、そしてUFOというSF成分。
語りつくされてきた感ばりばりですが、昨今の流行りである「俺ツエー」ではなく、主人公の浅羽はごくごく普通の少年です。
序盤は普通の主人公浅羽と何やら謎めいたヒロイン伊里谷の普通の学園生活が描かれます。
まず見どころとしてはこの普通の学園生活。
著者秋山氏の圧倒的筆力でもう、匂い立ってくるような青臭さが伝わってきます。
まずここが私に刺さりました。
比較的無味無臭な人生を送ってきた私ですが、少しくらいは青春の思い出があります。
放課後の西日が射す、人気の無いの校舎。
そこをバカみたいに声を上げながら走り回った中学生時代。
無残に砕け散った初恋。
そんな胸にくすぶっている、何か大切なものを刺激してきます。
その青臭さにぐいぐい引き込まれます。
浅羽と伊里野を取り巻く優しい世界。
そして合間合間に見え隠れする伊里野が背負っているもの。
それが後半へと繋がっていきます。
何も知らなかった浅羽と、全てを知っている読者
後半は物語が加速し、一気にシリアスな展開へと向かっていきます。
伊里野が抱えている、この物語の肝とも言える秘密ですが、その本質について、浅羽は断片的にしか知らされていません。
それに対して読者は伊里野サイドの重要人物、榎本の視点を通じて知る事になります。
伊里野の浅羽に対する思いも。
伊里野が浅羽に好意を持っている事は明らかです。
ですがそれを決定的な言葉で明言しません。
そんな関係が続く中、とうとうタイムリミットが訪れます。
そして浅羽は伊里野を連れて逃走します。伊里野の背負っているものをも連れて。
しかし浅羽は普通の少年でした。
少年と少女の逃避行は終わりを告げ、2人は引き離されます。
そして再び伊里野の前に浅羽が現れた時、物語はラストを向かえます。
最高の告白シーン
後半、ついに伊里野の思いが浅羽に告げられるシーンがあります。
告白シーンといえるでしょう。
その今までの伊里野の明言されなかった思いが、はっきりと言葉にされるシーンです。
今まではこのシーンの為にあると言っても過言ではありません。
その計算しつくされた、告白シーン、私は全てのフィクション、ノンフィクションの告白シーンの中で最高のものだと思っています。
今後もこの告白シーンを超える告白シーンは出てこないのではないかと思っています。
この最高の、あるいは最低の告白シーンからのラストはまさに必見です。
ラストシーンは両論賛否といわれています。
所謂ハッピーエンドとは言えないラストだからです。
その解釈は読者それぞれ。
私は物語の結末としては納得しています。
名作とは
私が読んだラノベの中で三指に入る名作だと思っています。
とにかく心を動かされた。感情を動かされた。
そんな作品でした。
もう読んでくれ、としか言えません。
ボーイミーツガールの金字塔。
今年の夏が始まる前にどうでしょうか?
ちなみに著者は遅筆であり、現在は数年新刊が発刊されていません。
偉大な才能が、まったく惜しい限りです。
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